最高裁判所第三小法廷 昭和47年(行ツ)58号 判決 1975年9月09日
京都市右京区太秦石垣町二四番地
上告人岡部はる
同所同番地
上告人
岡部義春
同所同番地
上告人
岡部照子
右三名訴訟代理人弁護士
稲垣貞男
京都市右京区西院花田町一〇番地
被上告人
右京税務署長
信免
右指定代理人
田端恒久
右当事者間の大阪高等裁判所昭和四四年(行コ)第四七号所得税更正処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四七年二月一八日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人稲垣貞男の上告理由について
所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、右違法があることを前提とする違憲の主張は、失当である。論旨は、採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己)
(昭和四七年(行ツ)第五八号 上告人 岡部る 外二名)
上告代理人稲垣貞男の上告理由
一、原判決は租税特別措置法第三五条(昭和三八年法律第六五号による改正前のもの)(以下単に措置法という)及び同法施行規則(大蔵省第十五号)第十七条(以下単に令という)の解釈適用に際し、これを誤りこの違法はもちろんこれにより税の公平、平等な課税の原則租税法律主義を定めた憲法第十四条、第八四条に違反し、更に審理不尽の違法がある。
二、原判決は、被上告人の年度内である昭和三七年十二月五日の本件土地の買受の事実は認められないとし、これに対する上告人らの同措置法第三五条二項の適用ありとの点に対し、前記措置法第三五条二項の買換特例の適用につき、令第十七条による承認申請書の提出が必用であり、準確定申告書にこの適用申請並びに承認申請に要する各要件を充足し、且つその意思が明示されていても別途に承認申請書と題する書面の提出がなければ同法の適用はないとの判断をしている。
しかしこれは明きらかに同法の解釈適用を誤つた違法並びに公平課税の原則にも反する違法がある。
(1) すなわち上告人らは、昭和三八年四月二六日準確定申告書において、訴外亡岡部徳治郎の売渡した措置法第三五条にいう耕作用財産及び価格、買主、取得額を明示し、これにつき措置法第三五条にいう耕作用財産として昭和三七年十二月五日に訴外宮本彦次郎から別紙目録表示の土地を金八百四万弐千五百円(仲介手数料を含む)をもつて買受け、同金員を支出して取得し且つ措置法第三五条にいう耕作用に使用しているとして、その他同法所定の要件の事実を示して措置法第三五条による買換特例の適用を申告し且つ受理された。
(2) 準確定申告
この準確定申告とは、所得税法第二六条六項、第二九条による申告であり、あくまでも同法上の確定申告そのものであることは明きらかである。
ただその申告期限が遅滞の確定申告の場合に、翌年二月十五日から三月十五日までとなつているのを令により死亡の日より四ケ月もしくは右の日時かいずれかの遅い日にすることと定められ、相続という特殊事情を考慮して期間を猶予し、且つ申告義務者を相続人と定めているのみであつて、確定申告であることには何ら差異はない。
(3) 措置法第三五条二項の承認申請の時期
同承認申請の時期について、訓示的に何年何月との明示はなされていないが、同法第三項によると、前二項の適用を受けようとする者の第一項に規定する財産を譲渡した日の属する年分の確定申告書等に言々と規定されており、このことよりしてこの時期にこの承認申請手続がなされておればよく、本件の場合は昭和三八年度の確定申告(本件では準確定申告のとき)の時期であり、昭和三七年度中でなければならぬという制限はなく、むしろ同法によると各買換について、規限伸長の申出も許され、或は実務取扱については翌々年の申告にこの手続をなした場合も同法の適用がなされている。
しかして本件は、その申告者が死亡しているため、その相続人による前記の準確定申告によりなされているのであるから、この期限について何らの違背もない。
(4) 承認申請の手続
(イ) 同法の承認申請について、その要件を充足した承認申請を確定申告書と別途に提出すれば何ら問題のないところであろうが、確定申告書の書面中にこれが所定の要件を充足する内容の記載があれば承認申請がなされているものとして処理することこそが、税務経済亦一般経済にも合致し、手続の無駄を省き、簡略化にも一致し、合目的々に処理されることとなり、いたずらに尚これを求めることは形式の乱用となり、ひいては公平課税の原則に反することとなる。
この違法を容認した原判決は法の解釈適用を誤る違法がある。
(ロ) 承認申請が前記のとおり仮に確定申告書の書面中でなされこれをもつて足り、別途に要するとしても、それは確定申告の時期まで取得されなかつた措置法第三五条の耕作用財産であり、この確定申告の時期迄に取得しなかつた場合にも、尚この買換の可能性のある場合で、その法定要件を充足する場合には、将来取得を条件として尚特例の適用を認め優遇処置をするとするものであり、この場合未確定状態を前提とし、このことのために特別の或は確認的作用が必用となるものであつて、すでに取得していた場合令第十七条の未来形での申告をなすことはできず、すでに申告の時期迄に取得した旨申告することとなり、この場合には確定申告書には取得した財産の内容、価格、使用目的、時期(税務特別措置法施行令「政令第四三号」第二四条二項によると耕作の用に供していない場合にその使用の時期等について明示しなければならないものであり本件の如くすでに使用していたものについてはそれは不用であるがあえて申告している)等についての記載(結局措置法第三五条一項の要件となり審査等もこれと同一になされることとなる)となり、未確定状態を判定する判断作用等は不用となり、法の税務署長の承認と言う趣旨よりしても、亦各種手続の経済等の面よりしても、別途に承認申請を必用とする理由も必要もなく、これを要するとした原判決には前同様の違法があり、更に被上告人はこの本土地の買受が昭和三七年十二月でなく、翌年である昭和三八年三月であると認めているものである以上、上告人らよりの前記確定申告書に措置法第三五条の適用を求める旨前記の如く他の要件を充足する申出ある以上、同法第三五条二項の適用をなして処理するべきであるのにこれを看過して、本件更正処分をなしたものであつて、これは同法違反であり且つ頭書の憲法違反であり、これが行為を容認し同判断を示している原判決に同違反がある。
(5) 税務署長の承認
この承認については、覊束行為であり、確認作用であつて、この承認については、署長の自由裁量に委ねられているものでではない。
従つて所定の手続要件を完備しているものについては承認の拒否は許されない。
しかして亦特に反対の表示がない以上承認されたものとして処理され、承認申請とは異議なく受理されることにより完成し、同法の要件を充足したこととなるものであり、この要件具備した行為につき、この税務署長の異議或は承認しない処分は、直ちに同法の違背であり、違法の行為であり、仮に裁量が許されるとしても、本件の場合この乱用にわたるものであつて、違法であり、一方又憲法上の租税法律主義に反する行為であり、これを容認する原判決には亦同違反がある。
本件の場合にも、仮に本件土地の買受が昭和三八年三月頃の買受であると認められ、この場合に被上告人の承認を要するとしても、この事実については、被上告人においても十分に確認しており、当然に措置法第三五条二項の承認はなされなければならぬものであつて、この承認をなさない被上告人の所為には同法違反の違法があり、且つこれを容認した原判決には同違法或は審理不審の違法がある。
(6) 相続人の買換による同法の適用については、その後の通達により、適用を認める旨明示されたとおり、税務署長の処理としては、これを認める実務の取扱であるが、相続はその被相続人の全ての地位を当然承継するもので、税法上も形式実質的にこの地位の承継を認めている。
亦措置法上もこの適用を排除するべき理由はなくその相続人がその被相続人の事業をそのまま承継しているものである以上、その法の趣旨よりしても、この買換の特例を認め、税法上の優遇措置は必用である。
もつともこの点について、原判決はこれを認容するものである。
(7) 尚農地の買受について、農地法上知事の許可を要するものであるが、本措置法上この耕作用財産の買受についての判断は、売買の契約が成立し、その代価のあらかじめの交付と引渡をなされていることをもつて足り、知事の許可がない以上同法の適用を排除さるべき理由はない。
むしろこの買受が不許可と確定したときに、同法の修正申告による処理がなされるべきであり、仮に要するとしても、正に本件こそ同法第三五条二項の事案であり、この取得の承認につき前述した理由で本件を処理されるべきであり、これに反する被上告人の処分は前述のとおり違法がある。
以上の次第であり、上告人らの準備確定申告に際しての措置法第三五条適用による買換特例適用の申請は適法であり、これに反する被上告人の処分は以上の各理由により、違法として取消されるべきであり、この違法を看過し、更に被上告人の処分を容認した原判決には頭書の違法があり、亦結局審理不尽の違法があるものである。
物件目録
(宮本房次郎よりの買受た耕作用土地の表示)
一、京都市右京区下津林大般若町五四番地の一
田八一九・八三平方メートル
一、同所同番地の二
田八二六・四四平方メートル
一、同所同番地の三
田八二六・四四平方メートル
以上